本部水曜日 中級教室
西 祐美
●無極静功との出会い
私が無極静功と出会ったのは2000年の秋でした。子育てに忙しい中、何かからだに良いことをしなければと感じていた私は、友人からの勧めで早速横浜同好会に出かけて行きました。
体験してみて是非無極静功を学びたいと思ったのですが、娘の幼稚園が休みの土曜日は教室に通うことができませんでした。
しかしなぜかそこで諦めきれなかった私は、図々しくも指導しておられた飯塚先生に「人を集めれば教えに来ていただけますか?」とお願いし、快くお返事をいただいて現在の大口同好会がスタートしました。
始めて間もなく、初心者でも大丈夫と勧められ江の島の合宿に思い切って参加したことは、私にとって無極静功への興味が深まる大きなきっかけとなりました。
夜の練習前、数名の方が黙々と行歩法を練習されている部屋に入った瞬間に感じた衝撃は、今でも鮮明に思い出すことができます。その静寂さと緊張感に圧倒され、違う世界の扉を開けてしまったように感じました。
また、翌日の練習では、疲れる様子もなく淡々と推手をこなされている先輩方の体力に驚かされ、心地よい疲労感と共に初合宿を終えました。そしてこの合宿以降、家でも時間を作って少しずつ練習するようになりました。
●変化の兆し
気功を日々の生活に取り入れるようになってまず感じたのは、風邪を引きにくくなったこと、体調の変化に敏感になってきたことでした。
そして徐々に、気功は私にとって様々な精神的ストレスから解放されるためになくてはならないものになっていきました。
私はフルーティストとして人前で演奏する機会が多くありますが、学生時代から舞台で「上がる」ことをどうすれば克服できるかわからないまま過ごしていました。
ある日、本番前の落ち着かない状態から目をそらさず站椿功をしてみたところ、緊張はしているものの、今までとは違う感覚で舞台に臨むことができました。
それ以来、本番前に練功することは、良い集中力を得るための大切な儀式となっています。
●音楽への影響
こうして振り返ってみますと、無極静功での学びは、私の音楽活動の様々な面に影響を与えているのだと気づかされます。
姿勢のポイントはすべて、楽器を演奏する時にも歌う時にも必要とされます。
また、『人間の能力が最大限に発揮できるのは、軸を立て不必要な力を抜き、からだ全体で動ける状態の時である』、『意識の配分は、からだの隅々までの動きに大きな影響を及ぼす』など、
練功で少しずつ深まってきた感覚は、自分が演奏する時に生かされ、さらに生徒さんのレッスンを通して確信を深めることができます。
「一つのことに意識を集中し過ぎない」「上に向かう時は下(足)を意識して」「身体の中心軸を感じて」「今の状態を刻々と確認しながら先に進んで」等々、
レッスン中、音楽を教えているのか気功を教えているのかわからなくなることがあるほど(笑)、共通点をあげれば数え切れません。
3年前、吹奏楽の指揮をするようになったばかりの頃は、指揮者として自分が団員を引っ張っていかねばならないのに、逆に団員のテンポに引きずられてしまうことがよくありました。
そんな時に『相手と接していても、自分の軸がぶれず内面が充実していれば、体勢を崩すことなく相手をコントロールできる』という推手の感覚が役に立つのでは、と実践してみたところ、
確かに自分のテンポ感を保つことができ、こんなところにまでも無極静功の実践が役に立つのかと感動しました。
気功の柔らかさ、しなやかさは木管楽器の奏でるメロディー、剣の力強く鋭い動きは金管楽器の響きのようです。また、繊細に紡ぎ出されるような定歩のリズム感、大きなエネルギーの渦に身をまかせる活歩のダイナミックな躍動感、相手とのやりとりから新たな何かが生まれる推手のライブ感(ジャズみたい?)・・・無極静功の中には、音楽のもつ様々な感覚や性質がすべてにあるように感じられます。
2017年9月 みなとみらい大ホール
吹奏楽の定期演奏会にて
●これからも・・・
無極静功と出会ってから早17年、あっという間だったような気もしますが、同じ動作をやり続けるうちにその感覚は徐々に変化してきました。
「わかった!」と何度も思い(数々の勘違いも含め)、次なる「わかった!」で上書きされていくことの繰り返しの日々・・・。
生徒さんの前に立つ指導員として、変わり続ける今の感覚を言葉で伝えるのは本当に難しいことだと感じています。それでも、この道を歩み続けることによって新しい自分と出会う喜び、
そして感じ方やものの見方が深まっていく感動を生徒さんたちと分かち合えることは、私にとって大きな喜びです。
これからも、音楽と無極静功、両方の世界にまたがるであろう美しく壮大な景色をはっきりと眺められる日が来ることを夢見て、
ひとつひとつの動作と自分の内面に向き合いながら一歩ずつ前に進んでいきたいと思います。
朝陽を浴びて托天昇陽法
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